2017年 ヨルゴス・ランティモス監督・脚本。ギリシャ悲劇の1つ、アウリスのイピゲネイアを基にしています。聖なる鹿・殺しが正しいです。物語そのものが破綻していくように思える作品。
あらすじ
郊外の豪邸で暮らす心臓外科医スティーブン(コリン・ファレル)は、美しい妻(ニコール・キッドマン)や可愛い子どもたちに囲まれ順風満帆な人生を歩んでいるように見えた。
しかし謎の少年マーティンを自宅に招き入れたことをきっかけに、子どもたちが突然歩けなくなったり目から血を流したりと、奇妙な出来事が続発する。やがてスティーブンは、容赦ない選択を迫られ……。
感想
ギリシャ出身の監督、ヨルゴス・ランティモス。2018年の「女王陛下のお気に入り」で世界的な監督となりましたが、2023年の「哀れなるものたち」ではヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞しました。
作品の特徴としては、不条理で風刺が効いた、ちょっと怖さもあるという印象がありますが、この「聖なる鹿殺し」もほんとうに不条理。
それだけではなく、他の作品と大きく違うところは、ストーリーがやや破綻しているところ。
ギリシャ悲劇の生贄がモチーフで、現代社会にスマートに生きる医師一家と、聖なる生贄を捧げる狂気というまったく相反するものの表現に気を取られ、ストーリーの核になる「呪い」についての説明が不十分なため、観客は未消化のまま終わってしまうのです。
これは、前作の「ロブスター」があれほど結末を観客に投げていたのに未消化とはならなかったのとは真逆の現象です。
おそらく気づかないヒントが散りばめられていたのだろうとは思いますが、ほとんどの観客は映画を1度しか見ないので未消化が消化に至った方はごく一部かと思われます。
破綻と言えば、主人公の一家は、夫婦関係も親子関係も、一見良好ですが実はすでに破綻していることが垣間見えます。
そう考えると、この映画のモチーフは、ギリシャ悲劇に見せかけて「破綻していく人々を破綻したストーリーで描く」ことなのかもしれません。それならなんとか納得できます・・