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あのとき見逃した映画は名作だったかもしれない

『哀れなるものたち』映画のあらすじ&感想

 

2023年 監督:ヨルゴス・ランティモス エマ・ストーンが2度目のアカデミー主演女優賞を受賞。原作小説の1部分のみを映画化しています。賛否ある作品ですがクセになる人も続出。

 

あらすじ

 

不幸な若い女性ベラ(エマ・ストーン)は自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウイレム・デフォー)によって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。

 

「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。映画com.

 

感想

 

ある日突然、脳だけ赤ん坊になってしまったら、そして何も余計な価値観を植え付けられずに成長したとしたら、人はベラのように、自分に正直な大人になるのでしょうか。

 

パラレルワールドの近世のロンドン。異常に医学が発達し、博士は仰天の手術をやってのけます。

 

それはともかく、何もしなければ人間はまっすぐ育つのでしょうか。成長するにしたがってこどもに悪意も育ってくる様子を、私自身は2人を育てて手に取るようにわかりましたので
ベラのように強い意志を持った善人に、自然に育ったのは不思議でしかありません。

 

ともかくまっすぐに育ったベラは、自由な自分の人生を手に入れた。クライマックスで「私は私の新しい人生と生まれ持った*****を大切にする」と宣言するに至り、観客は歓喜し納得して物語が終息に向かう。

 

もし、もう一度人生をやり直すことができるのなら、ベラのように自分自身の欲求に忠実に生きたいと思いますか。

 

生まれ変わりたいと思っている一般大衆にとってこのストーリーは、現代に通じる前向きな筋書きではあります。ただし、決して原作小説の本筋を踏襲はしていない。

 

原作小説は実は複雑な構造になっていて、①奇想天外な書物(ベラの夫が書いた) ②その内容を否定するベラの手紙 ③編集者による注釈 から成っています。

 

映画は①のみを脚色して作られました。つまり、これだけでは原作者の意図は十分には反映されてないと思われるのですが、ヨルゴス・ランティモス監督はベラをヒーローに仕立て、出来得る限りの美術・衣装を作りこみ、ミステリアスで魅力的な映画に仕上げました。

 

その結果、数々の映画賞を授与されるのですが、評価されたこの物語は小説の中のほんの一部で、もっともっと大胆な試みの原作小説の大いなる意図は、割と安易に折りたたまれちゃっています。

 

しかしそれでもこの映画がただものではないと思わせ、観た人を惹きつけるのは、主要なキャストが「信頼できない語り手」を意識して演じていてそのことが映画の行間に謎めいた匂いをうまく漂わせていたためかもしれません。

 

原作から独り立ちしたベラの旅は、幸せな結末に着地し、さわやかにエンディングを迎えます。まったくもやもやすることなく。このあたりは監督らしくないなと思いつつも、長い旅の終わりに私たちは満足をおぼえたのでした。

 

とは言え・・ちょっと体張りすぎですね。エマさん。

 

この作品は、数々のランティモス作品の中で異色とも言えるハッピーエンドで終わる作品なのですが、この作品だけが劇中劇のような(原作の①のように)位置づけならば何となく納得できます。

 

「ロブスター」「聖なる鹿殺し」など数々の作品の登場人物は、みんなどこか「哀れ」です。しかしながらこの「哀れなるものたち」のベラだけが、唯一哀れではないのです。吹っ切れて、ぶっ飛んで、りりしくまっすぐで美しい。

 

ランティモス監督はベラを描くことで、それまでの作品群の「答えを出した」ように私には見えます。エマ・ストーンの演技もそれに十分こたえていました。

 

ただ・・ベラは確かに哀れではないですが。エマ・ストーンは少しだけ哀れだと思う人がいるかもしれないなと、これはちょっと考えすぎでしょうか。