2021年 14世紀のパリで起きたノンフィクションをもとに、ベン・アフレック、マット・ディモン他の共同脚本、リドリー・スコットが監督を務めました。
あらすじ
騎士カルージュ(マット・ディモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫の旧友ル・グリ(アダム・ドライバー)に乱暴されたと訴えるが、目撃者もおらず、ル・グリは無実を主張。
真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は罪人として死罪になる。
そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになる。人々はカルージュとル・グリ、どちらが裁かれるべきかをめぐり真っ二つに分かれる。映画com.
感想(ネタバレ含む)
リドリー・スコット監督が戻ってきた、と言われた作品。14世紀のフランスの騎士たちの世界で、最後となった決闘裁判の実録をベースにした物語を、臨場感たっぷりに描いている。その映像は魔術のように美しくバランスよく、そして真に迫っています。
ただしかし、映画を観終わっての感想としては、「なにか一つ足りない」
それが何なのか、ぼんやりと掴めてきたのは、鑑賞後数時間経ってから。「ここで事実と言えることは何だろう」と整理してみた後です。
確かなのは、妻が男に強姦された。その男は因縁がある気に入らない男だった。決闘裁判によって決着がついた。という3つのこと。
物語は「羅生門」のように夫側、強姦した男側、妻側から3章に分けて語られました。それぞれ同じ場面を違う角度から表しており、俳優たちは微妙に演じ分けなくてはならず、高度な演技力を要しました。
それはまったくうまく成功しており、文句のつけようはありません。またすべての設えが芸術的に高いレベルに達しており、あるシーンの暖炉の火の美しさ、色使いに思わずうっとりするほどでした。(ただ一つ、フランスが舞台なのに英語を話していることを除いて)
決闘シーンのグロテスクさ、血のほとばしり方もまったく完璧。そしてマット・デイモンの体の使い方は、本当に戦闘慣れとでも言いましょうか。
だけどだけど何かが足りない。完璧なのに何かが足りない。それは。
事実としてわかっていることから、容易に推測できるのに、そこが強調されていないこと。
それは、夫はただプライドを気付つけられたことに腹を立て、日頃から気に入らない男を殺した、ということ。
妻の貞操とかそんなことじゃなくて、夫のカルージュはただル・グリを殺してやりたかった。そして決闘によってまんまと殺した。その身勝手さや決闘というものの不毛さが、ただ妻の微妙な表情や夫へのか細い恨み言で表し切れるかというと、それは少しだけ弱かった。
妻のマルグリットを演じたジョディ・カマーは非常にうまい女優さんですが、脚本と演出が「羅生門」にこだわりすぎて大事なところがぼけています。「羅生門」のようにストーリーテラーがいればもう少し違っていたのでしょうが。
美味しいコース料理があったとして、メインの料理以外の味が濃すぎて、メインの料理の印象が薄くなってしまう。たとえばそんな印象です。
しかし・・勝ったほうが勝訴し、負けたほうは妻もろとも惨死。こんな裁判、ただの見世物でしかなかったですね。これで最後になったそうですが・・。